ピラティススタジオの開業では、お客様のケガやマシンの事故に備える保険選びが欠かせません。優先度別に必要な保険と選び方を解説します。
ピラティスのように指導者が個別にプログラムを組んで指導するトレーニングでも、お客様がケガをする事故は起きています。消費者庁によると、ピラティスなどを含むパーソナルトレーニングの事故は2019年から2025年までに196件登録されており、近年は増加傾向です。治療に1か月以上かかったものが約4割を占め、ケガの部位は腰から下が半数を超えています。
また、「事故の責任は一切負わない」といった同意書を交わしていても、事業者の損害賠償責任をすべて免除する条項は、消費者契約法で無効とされています。指導や設備に過失があれば、賠償を求められる可能性は残るのです。賠償金や治療費、マシンの修理費などを自己資金だけでまかなうのは難しいため、保険で備えておく必要があります。
参照元:消費者庁(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_086/)
参照元:e-Gov法令検索 消費者契約法 第8条(https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061)
まずは、スタジオを開業するなら必ず備えておきたい保険を紹介します。
最も優先度が高いのが、お客様へのケガや持ち物の破損に備える賠償責任保険です。ピラティススタジオでは、指導中にお客様へ損害を与えた場合と、スタジオの設備やマシンの管理が原因で事故が起きた場合の両方を補償できるかが重要です。保険によっては、この2つが別々の補償項目として設定されているためです。
個人で加入しやすい例として、日本エアリアルヨガ協会が取り扱う「IDBインストラクター保険」があります。月額800円(税込880円)で、ヨガやピラティスなどのインストラクター向けの賠償責任保険です。お客様の治療費等は1名50万円(保険期間中1,000万円)、施設の管理や業務に起因する事故は1名・1事故につき5,000万円まで補償され、オンラインや野外のレッスンも対象になります。
参照元:日本エアリアルヨガ協会(https://aaj.life/insurance/)
受付スタッフやインストラクターを1人でも雇う場合は、労災保険を含む労働保険への加入が義務です。正社員だけでなく、パートやアルバイトも対象になります。保険関係が成立した日から10日以内に、労働基準監督署などへ「保険関係成立届」を提出します。
手続きを怠ると、最大2年分の保険料をさかのぼって徴収され、10%の追徴金も課されます。さらに、未加入の期間中に労災事故が起きると、支給された保険給付額の40%または100%を事業主が負担することになります。なお、誰も雇わずにオーナー1人で運営する場合は、労働保険の手続きは不要です。
参照元:e-Gov法令検索 労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第4条の2(https://laws.e-gov.go.jp/law/344AC0000000084#Mp-Ch_2-At_4_2)
参照元:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001743837.pdf)
マシンや内装に多額の費用をかけるピラティススタジオでは、事業用の火災保険も欠かせません。リフォーマーなどが損害を受けると、買い替え費用がかかるうえに営業も止まってしまうためです。店舗向けの火災保険では、火災や落雷、破裂・爆発のほか、風災・雹災・雪災や建物外部からの物体の落下・飛来なども補償の対象になります。
テナントを借りる場合は、「借家人賠償責任補償」が付いているかも確認しましょう。火事を起こした借主は、隣の区画など契約関係のない相手に対しては、「失火責任法」により重大な過失がなければ賠償責任を負いません。
しかし、区画を借りている貸主に対しては事情が異なります。借主には、借りた物件を注意して保管し、退去時に元の状態で返す契約上の義務があるためです(民法第400条・第621条)。この義務を果たせなくなった場合の賠償責任(民法第415条)には失火責任法が適用されないと、最高裁判所の判例で示されています。そのため、火事で区画を損壊した場合は、重大な過失でなくても貸主への賠償責任を負うことになり、この賠償に備えるのが借家人賠償責任補償です。
自宅兼スタジオの場合は、住まいとして契約している火災保険でスタジオ部分の設備や営業中の事故まで補償されるとは限りません。契約前に、スタジオとして使用することを保険会社へ伝え、補償の範囲を確かめておきましょう。
参照元:一般社団法人日本損害保険協会(https://soudanguide.sonpo.or.jp/home/q052.html)
参照元:(pdf)一般財団法人 不動産適正取引推進機構(https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2024/12/173.pdf)
ここからは、スタジオの運営体制や規模に応じて検討したい保険を紹介します。
オーナー自身がレッスンを担当する個人スタジオでは、ケガや病気で休むと、その間の売上が止まってしまいます。会社員が加入する健康保険には傷病手当金がありますが、個人事業主が加入する国民健康保険では、傷病手当金は市町村などが条例で定めた場合にのみ支給できる任意の給付です。そのため、会社員と同じように休業中の手当を受け取れるとは限りません。
こうした働けない期間の収入減に備えるのが、損害保険会社の所得補償保険や、生命保険会社の就業不能保険です。所得補償保険は、病気やケガで働けない間の所得を補償します。講師が自分だけで、休むと代わりがいない場合は、優先度を上げて検討しましょう。
火災や自然災害でスタジオが使えなくなっても、家賃などの固定費はかかり続けます。休業補償は、営業できない期間の売上の減少による損害を補償する保険です。事業用の火災保険に休業損害の補償を追加できる商品もあるため、火災保険を選ぶ際にあわせて検討すると、補償の漏れを防げます。
ピラティススタジオでは、会員の連絡先に加えて、既往歴やケガの状況など健康に関する情報も扱います。病歴は個人情報保護法の「要配慮個人情報」に当たり、漏えいした場合は件数にかかわらず、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務です。予約システムや顧客台帳をデジタルで管理していると、不正アクセスや誤送信による漏えいのリスクもあります。
個人情報漏えい保険は、漏えい時の損害賠償や対応にかかる費用に備える保険です。開業当初は賠償責任保険などより優先度は下がりますが、会員数が増えて扱う情報が多くなった段階で検討しましょう。
傷害保険は、指導中や通勤中にオーナーや講師自身がケガをしたときの治療費などに備える保険です。所得補償保険が「働けない間の収入」を補うのに対し、傷害保険は「ケガそのもの」に対して保険金が支払われるもので、役割が異なります。両方に加入する場合は、補償が重ならないよう内容を確認しましょう。
保険を選ぶときは、まず補償範囲を確認しましょう。マシンの管理が原因の事故や、オンラインレッスンでの事故が対象になるかは、商品によって異なるためです。補償額も、万が一の高額な賠償に対応できる水準かを確かめます。
次に、団体保険と個人契約を比較します。団体保険は割安な場合が多く、なかには個人で加入するより保険料を15%程度抑えられるとしている団体制度もあります。一方、個人契約は必要な補償を自由に組み合わせやすいのが利点です。また、複数の保険に別々に加入すると、補償の重複や漏れが起きやすくなります。賠償・財産・休業など事業活動のさまざまなリスクをまとめて補償する保険で一本化するのも一つの方法です。
加入のタイミングは、レッスンを始める前です。保険には補償の開始日があり、申し込みの締め日を過ぎると補償が翌々月からになる商品もあります。たとえば、毎月20日までに申し込むと翌月1日から補償が始まる仕組みの保険があります。プレオープンや体験会を開く場合も、その日までに補償が始まるよう余裕を持って申し込みましょう。
ピラティス開業では、まず賠償責任保険、スタッフを雇う場合の労災保険、マシンや内装を守る事業用の火災保険を優先して備えましょう。
そのうえで、自分が主力講師なら所得補償保険、規模に応じて休業補償や個人情報漏えい保険を検討します。補償範囲と金額、重複がないかを確認し、レッスン開始前に補償が始まるよう加入を済ませることが、安心してスタジオを運営するための第一歩です。



※選定条件:2024年4月20日現在、Googleにて「ピラティスマシン」で検索し、公式サイトが表示される上位11社をピックアップ。その中で、以下の特徴を持つ3社を紹介します。
・lulubalance…マシンピラティスの主要マシン「リフォーマー」の価格が、開業・導入に必要な備品が6つ付いても最も安いため(247,500円(税込)※リフォーマー単品の価格)
・ピラティスマシンFactory…最も納品スピードが早いため(入金後約1週間)
・Flight Pilates…カラーが選べる箇所と、組み合わせの数が最も多いため(192通り)